入門期の英語指導

英語

はじめに

2020年より、小学校で英語が教科化になります。これまでの英語活動と違い、文字の指導も導入されてきます。小学校の教員で英語の免許を持っている先生は、まだ少数だと思います。英会話に堪能な方は、英語指導助手や英語ボランティアの等、たくさんいらっしゃると思いますが、英語を活動としてではなく、教科として教えることに不安を感じている方もいらっしゃるのではないかと思います。小学校は、入門期で大切な時期です。英語の入門期の指導について、気をつけなければいけない点や英語指導助手(AET)との関わり方について、わかりやすく記していこうと思います。

子供の実態を知ろう

英語の教科にかかわらず、子供たちの実態を把握しておくことは、とても大切なことです。子供たちの実態は、地域によって様々です。英語を習っている子供とそうでない子供は、誰なのか、どんな学習をしているのか等、把握しておく必要があります。英語を習っている子供たちの反応で授業が進んで行ってしまうのは最悪です。公教育である以上、授業は、英語を習っていないことを前提に進めるべきです。子供たちの実態を把握しておくことは、担当する先生の大きな役割の一つです。

英語指導助手とのティームティーチング

小学校に英語指導助手が派遣される日数が増えてきました。その中で、教職の免許を持っている英語指導助手は、極めて少ないのではないでしょうか。学級担任が全面に立って授業を行うように指導されるケースが多いようですが、「助手」という言葉にとらわれないで、力のある英語指導助手ならば、その方をメインにし、担任教師がサブに回っても良いと思います。ただし、授業が子供の実態に合っているかは、常に考慮し、英語指導助手にすべておまかせになってはいけません。

英語のできる先生ほど注意せよ!

海外留学やホームステイの経験があり、英会話の堪能な先生に陥りやすい罠があります。英語指導主事が話す英語を聞き取れないと、子供は授業がいやになってきます。そこで、親切に英語指導助手の話した英語をすべて、日本語に訳してあげるのです。これを続けるとどうなるのでしょうか。おそらく、子供たちは英語指導助手の英語を聞かなくなります。聞いてなくても日本語に訳してもらえるので、そこで意味をとらえることができるからです。

ふりがなは最小限に

これまでの英語活動から、本格的な英語の授業になってくると、英文も読む必要性がでてくるでしょう。英語を習っていない子供たちにとって、高いハードルになることでしょう。英文を読めるようにする手っ取り早い方法は、単語にふりがなをふらせることです。はたして、それでよいのでしょうか。例えば、violin という単語が読めなかったとします。[バイオリン]では、本来の英語の発音とかなりかけ離れた発音になっています。そこで、[ヴァイオリン]とふらせたらどうでしょうか。だいぶ英語の発音に近づきましたが、実際の英語の発音とは異なります。日本語でふったふりがなは、所詮、日本語であって、英語の音ではありません。ふりがなに頼っている子は、英語の音から、どんどん遠ざかって行ってしまいます。100回間違った発音をさせるなら、一回正しい発音をさせた方がましです。そうは言うものの、まったく、英文が読めなければ、復習もできませんし、ますます英語嫌いになっていきます。そこで、上記のことを知った上で、できるだけ英語の音に近いふりがなを鉛筆でふらせましょう。そして、読めるようになった英単語のふりがなは、消させていくのです。別な言い方をすると、どうしても読めない語だけにふらせるのです。ふりがなをふった英文を子供に与えてはいけません。必ず、英語を読まずに、ふりがなを目で追って発音するようになります。ふりがなをふらせるのは、最小限にとどめましょう。

ABC(エー・ビー・スィー)は発音ではない。

文字と発音の関係(英語と日本語の違い)

英語の文字はA~Zまで26文字あります。大文字と小文字の2種類ありますから、52文字覚えれば文字に関しては事足りてしまいます。日本語のように、ひらがな、カタカナ、そして漢字までたくさんの文字を覚える必要はありません。しかし、発音の種類は日本語よりも多いのです。従って、一つの文字に複数の発音が割り当てられます。例えばcは[k](ク)と発音したり[s](ス)と発音したりします。また、sh[∫](シュ)のように、複数の文字を組み合わせて一つの発音を表したりします。

皆さんの中には、スペリング(つづり)が苦手な人や、覚えるのに苦労した人がたくさんいると思います。スペリングを覚えるのが困難で英語嫌いになってしまう子供も多々います。このハードルを乗り越えてきた人たちは、何度も書いているうちに、スペリングと発音の関係がある程度わかってきた人たちではないかと思います。ABC  ・・・・Zまで、(エィ、ビー、スィー・・・ズィー)と繰り返し、言わされてきたと思いますが、ここで終わってしまっているのです。実はこの(エィ、ビー、スィー)は文字の発音ではありません。文字の名前です。ひらがなやカタカナを使っている私たち日本人は、「あ」は[ア]、「い」は、[イ]と発音し、それ以外の読み方はしません。ほとんどのひらがな(カタカナ)が、文字と発音が1対1対応になっています。すなわち、文字の名前と発音が一致します。だから、ABC  ・・・・Zまで、(エィ、ビー、スィー・・・ズィー)と教えることが、文字の発音を教えていると錯覚されている方もいらっしゃるように思います。これは、文字の名前を教えていることで、文字の発音を教えていはじることにはなりません。

フォニックスを教えましょう

フォニックスとは

「英語の文字と発音の関係」を系統的に表したものをフォニックスと言います。もともとは、英語圏の子供たちに読み書きを覚えさせるためにできたそうです。フォニックスを学ぶと、発音を聞いただけで、ある程度、スペリングの見当がつけられるようになるし、初めて出会った英語の単語も読み方の見当がつきます。基本的な英語の文字と発音の関係は身につけさせたいものです。英語の「音」と「文字」がリンクできた子供もとそうでない子供では、その後の英語学習に雲泥の差があるでしょう。ここで、英語指導助手を使わない手はありません。子供たちの耳に文字と正しい発音をたたき込むのです。音を正しく聞き分けるこ、正しく発音することはできません。フォニックスを習うと発音も良くなってきます。「10年やっても英会話ができない」と言われてきましたが、その原因の一つに、フォニックスの指導がなされてこなかったことがあるのはないでしょうか。これから、文字の指導も入ってきます。小学校の英語教育でも、積極的に取り入れていきたいものです。

何から教えるか

フォニックスをすべて教えようとすると、専門の知識と時間も必要です。通常の公立学校では、ハードルがかなり高いかもしれません。しかし、基礎だけは教え込み、英語の音と文字の関係について、ある程度見当がつけられるようにはしたいものです。後は、徐々に文字と音のルールを増やしていきます。

まずは、これまでしてきたように、A~Zまでの読み方(名前)を教えます。名前読みをするとBは[ビー]ですが、その読み方の中に[b](ブ)という発音を含みます。他の多くのアルファベットが、同様にその文字の読み方の中に、その文字の発音を含みます。ですから、まず、名前の読み方である、(エィ、ビー、スィー・・・ズィー)をしっかり覚えさせることはとても有効です。

次に基本的な発音を1対1の対応で教えます。どの子にも理解させるには、1対1の対応で定着させるのがよいでしょう。対応を以下に示します。発音の仕方をふりがなで書いておきますが、正しい発音ではないことに留意してください。日本語で書いたものは、日本語の音です。

  •  a    b    c    d    e    f    g    h    i     j     k    l    m
  • ア  ブ  ク  ドゥ   エ  ふ  グ  ハ  イ  ジュ  ク  ル  ム
  • n    o    p    q     r    s    t     u    v      w    x    y    z
  • ヌ  オ  ク  プ    る  ス  トゥ  ア   ウ”  う    ク   イ  ズ

英語はアルファベットの足し算で読むことができる

アルファベットを大文字でなく小文字で記したのは、通常、単語を読むときに、小文字で書かれている場合の方が圧倒的に多いからです。一度に26文字は無理です。子供たちの様子を見ながら、少しずつ定着させていきましょう。最初の5文字を覚えただけでも、初めて出会った単語を読み書きできます。例えば bed です。dad もできますね。

bed → b[ブ] + e[エ] +d[ドゥ] → [ ブ・エ・ドゥ ] → つなげて発音すると [ ベッドゥ] になります。dad → d[ドゥ] + a[ア] +d[ドゥ] → [ ドゥ・ア・ドゥ ] → つなげて発音すると [ダッドゥ] になります。このように、英語はアルファベットの音を覚えると、足し算すると読めるようになります。機械的に教えるのではなく、このように、実際の英単語と合わせながら教えるとよいですね。

子供への助言の仕方

実際に練習をするときには、可能ならば英語指導助手の先生にお願いし、正しい音を発音してもらいましょう。子供たちには、英語指導助手の先生の口元をよく見て、そっくりまねるように話しましょう。発音に関しては、小学生の方が、中学生に比べて上手に発音します。思春期前なので、日本語と異なる音を出すことに抵抗が少ないことも影響しているのでしょう。しかし、耳だけをたよりに、英語の音を出すのは、そう容易なことではありません。そこで、先生の助言が必要となってきます。

A ~Z までのすべての発音をするときの共通の助言

正しい英語の音を出すには、姿勢が大切です。背筋を伸ばし、真っ直ぐ前を向き発音させます。下を向いて発音しては英語の音になりません。日本語は胸から上の呼吸(胸式呼吸)で話されます。息の流れは、英語の音に比べ遅く、喉にある声帯を震わせて声になります。それに対し、英語の音は、お腹から息を出す腹式呼吸で話されます。息も日本語に比べて速く、声帯を震わせないで声を出すイメージです。日本語に比べて息が速いので、日本人と耳には、とても早口で話しているように感じられます。姿勢を正し、喉の息の流れを通りやすくし、声を前方に5メートルぐらいとばすつもりで発音させると、英語の音に近くなります。また、口を縦に大きく開いては、英語の音を出すのは困難です。口は、縦よりも横に開きます。

a の発音

a には、いくつかの発音がありますが、代表的な発音として apple や cat の a の発音を教えましょう。発音記号では、[æ] と表記される音です。a と e が合わさったような記号ですね。発音するときは、日本語の[ア]のように口を縦に大きくあけないで、横に開き、[エ]と発音させ、その口の形のまま、やや伸ばす感じで、[ア]と発音させます。

b の発音

b の発音は、発音記号では [b] と表記されます。B を名前読みすると [ビー]ですが、 [ビー]から [イー]を引いた発音です。英語は日本語よりも息の流れが速いので、[ブ] よりも[ブッ]に近いです。けんかをしたときに言う「ぶっとばされるぞ!」の「ぶっ」に近い音です。上の唇と下の唇を結び、いったん息の流れを止め、破裂させるイメージで発音させます。ちなみに、 bomb は爆弾のことです。発音が正しくできているかチェックさせるには、薄いティッシュペーパーを一枚使います。ティッシュペーパーを両手で持たせ、口の前に掲げます。発音をした時にティッシュペーパーが、動くかチェックさせます。動かない子供は、息の強さが足りません。

c の発音

c の発音も複数ありますが、cat や cutの c の発音をまず、教えます。発音記号では[k] と表記されます。日本語の[ク]よりも[クッ]に近い音です。魚の小骨がのどに刺さったとき、その小骨を取るように息を速く吐き出して、発音するイメージです。小骨が喉に刺さっていると苦しいので「クッ、クッ、クッ、苦しい・・・」というときの[クッ]に似ています。正しく発音されているかのチェック方法は、のど仏に人差し指、中指、薬指の3本をあて、日本語の「く」を発音させます。その時に、声帯が震えるので、のど仏が震えることを確認させます。「く」で感じられない子供には、「ぐ」と発音させてみてください。震えが確認できたら、英語の音で[クッ]と発音させます。同じようにのど仏が震えたら、それは、日本語の発音です。英語の音は息が速いので、震えません。篩えてしまう子供には、息を鋭く、速く出すように指導します。

d の発音

d の発音は、発音記号では [d] と表記されます。Dを名前読みすると [ディー]ですが、 [ディー]から [イー]を引いた発音です。英語は日本語よりも息の流れが速いので、[ドゥ]よりも[ドゥッ]に近いです。dog や desk の d の音です。日本人は[ド]と誤って発音しがちな音です。bed を日本人は [ベッド]と発音してしまいがちです。[ベッドゥ]の方がより、英語の音に近いです。厳密に言うと、dog の d とbed の d は、発音が違います。単語の先頭にくる [d] は[ドゥッ]と強い音になり、単語の語尾にくる [d] は、[ドゥ]と弱くやわらかな音になります。まず、強い音か ら教えましょう。子供が[ド]と日本語の発音になっていないかに注意してください。

e の発音

e は名前読みでは、[イー]と発音されますが、文字の発音としては、[エ] と教えましょう。egg や desk の e です。日本語の [エ] に近い音ですが、息を鋭く速く出して発音します。egg のように、e が単語の先頭にくると、desk の[エ]よりも[エッ] に近い音になります。強い音の方で教えましょう。

f の発音

f の発音は、発音記号では [f] と表記されます。Fを名前読みすると [エふ]ですが、 [エふ]から [エ]を引いた発音です。この発音は日本語にはない発音なので、特に注意して、ていねいに教える必要があります。fox や flower の 音です。fox をホックスと発音する子供は、少ないと思いますが、flower は「フラワー」と日本語として定着しているので、日本語の「フ」で代用してしまいがちです。                                 f の正しい発音は、口を横に開き、上の歯で下の唇をしっかりと押さえます。子供に指導するときは、「唇が痛いぐらい噛みましょう」と表現すると良いと思います。そして、息を「フッ」と鋭く強く出したとき、息が上の歯と下唇の隙間を通るときに出る音です。できれば、手鏡を持って、口元を確認させましょう。手鏡がない場合は、ペアで確認させましょう。

g の発音

g の発音も複数ありますが、get や good の g の発音をまず、教えます。発音記号では[g] と表記されます。[g] の発音は [k] の発音と兄弟だと思ってください。 [k] の音の出し方は、「 c の発音」のところで詳しく説明してありますので、そちらを参照してください。 [k] は「クッ」と発音しますが、[g] は、「クッ」に声を出して、「グッ」と発音します。日本語の「グ」にとてもよく似て聞こえますが、日本語の「グ」ほど声帯が震えません。正しい発音かどうかのチェック方法は、のど仏に人差し指、中指、薬指の3本をあて、日本語の「グ」を発音させます。その時に、声帯が震えるので、のど仏が震えることを確認させます。次に英語の音の g を発音させます。英語の音は、息の流れが速いので、正しく発音すると、日本語の「グ」よりも震えが少ないはずです。のど仏の震えが少なくなったかどうかを確認させてください。

h の発音

hの発音は発音記号では [h] と標記されます。hat や hand の h の音です。この音は口を横に開き、舌を平らにして、できるだけ後方にひきます。そして、息を強く「ハッ」と出します。寒いとき、手のひらを温めるときに「ハー」息を吹きかけるのに似ています。ただし、手を温めるときよりも息の流れは、ずっと速くなります。空手家が出す、「ハッ」に似た音です。ドラゴンボールの「カー・メー・ハー・メー・ハー」の最後の音ですが、「ハー」とは伸ばさず、「ハッ」と短く止めます。エネルギーの入った音です。

i の発音

i の発音も複数ありますが、hit や  の pig の i の発音をまず、教えます。発音記号では [ i ] と標記されます。日本語の [イ] の発音によく似ています。ただし、日本語の [イ] よりも短く、息を速く出して、発音します。声帯を日本語の [イ] のように震わせないように発音します。

j の発音

Jを名前読みすると [ジェイ]ですが、[ジェイ]から [ェイ]を引いた発音です。jet や Japan の j の音です。日本語の「ジャ・ジュ・ジョ」の「ジュ」に近い音です。この音を出すには、右手の人差し指と親指で上唇と下唇を挟むように持ち、よくもんで、マッサージします。そして、鼻の下の筋肉を鷹のくちばしのように前に突き出します。その口で「ジュッ」と軽く発音します。

k の発音

king や  kiss の k の音は、発音記号では[k] と表記されます。これは、c の発音の仕方で説明したものと全く同じですので、cの発音を参照してください。

lの発音

l の発音は、発音記号では [l] と表記されます。Lを名前読みすると [エル]ですが、 [エル]から [エ]を引いた発音です。leg や lemon の l の音です。舌の先を上の歯の裏の根元と歯茎の境目にしっかりとつけます。手鏡で見ると、上の歯と下の歯の間に、下の裏側が見えればOKです。手鏡がない場合はペアーで確認させましょう。舌の先が上の歯の裏に届いたなら、舌にしっかりと力を入れて、速い息を出します。その時に、舌が歯と歯茎の境目を打つときに出る音が[l] の音です。

m の発音

m の発音は、発音記号では [m] と表記されます。Mを名前読みすると [エム]ですが、 [エム]から [エ]を引いた発音です。map や melon の m の音です。日本語の「ム」よりも上唇と下唇が強く押し合うようにして発音します。この音を出すためには、まず、顎の体操をします。口を横に開いて、上の歯と下の歯を左右に動かします。別の言い方をすると、上顎と下顎を左右に動かします。次に、左右ができたら、前後に動かします。少し耳の下が痛くなる子供が出るかもしれません。これで、唇に力が入ります。口を真一文字に閉じて、上唇と下唇で押し合いながら、息を強く出し、「ムッ」と発音します。これが、英語の [m] の音です。

nの発音

n の発音は、発音記号では [n] と表記されます。Mを名前読みすると [エヌ]ですが、 [エヌ]から [エ]を引いた発音です。net や  の not の音です。ローマ字では「ン」と表記されますが、日本語の「ン」とは違い、もっと強い音です。けんかをして「ヌァニオー」と言うときの「ヌ」に似ています。怒った感じで、「ヌ」と発音すると英語の [n] に近くなります。舌を上の歯と歯茎の境目において、舌の先を歯と歯茎に強く押しつけるようにして発音します。

o の発音

0 の発音も複数ありますが、on や  の pot の o の発音をまず、教えます。日本語の[オ]によく似ています。日本語の [オ] よりも短く、息を速く出して、発音します。声帯を日本語の [オ] のように震わせないように発音します。日本語の [オ]よりも口の開け方を小さくします。小指の先を口元に当て、小さな小指の先ぐらいに、口をすぼめて、「オッ」と発音します。バランスを崩して思わず、「オットット」と言うときの「オッ」のイメージです。

p の発音

p の発音は、発音記号では [p] と表記されます。P を名前読みすると [ピー]ですが、 [ピー]から [イー]を引いた発音です。英語は日本語よりも息の流れが速いので、[プ] よりも[プッ]に近い音です。おかしくて思わず「プッ」と吹き出す音に似ています。[ p ]の発音は[ b ] の発音と兄弟だと思ってください。まず、口を真一文字に閉じて親指と人差し指で唇を挟むようにしてよくもみます。次に、上の唇と下の唇を結び、いったん息の流れを止め、破裂させるイメージで発音します。発音が正しくできているかチェックさせるには、薄いティッシュペーパーを一枚使います。ティッシュペーパーを両手で持たせ、口の前に掲げます。ティッシュペーパーが、動くかチェックさせます。動かない子供は、息の強さが足りません。

q の発音

queen や  question の q の音は、発音記号では[ k ] と表記されます。これは、c の発音の仕方で説明したものと全く同じですので、cの発音を参照してください。

r の発音

r の発音は、発音記号では [r] と表記されます。R を名前読みすると [アー]ですが、  [アー]から [アー]を引いた発音です。red や run の r の音は日本語の「ラリルレロ」の rの音とよく似ていますが、異なる音です。この音を出すためには、日本語の発音との違いから教えます。はじめに、日本語で「ラ・リ・ル・レ・ロ」と発音させます。その時に舌の先が、一回、一回、上の歯の歯茎をこするように当たっていることを確認させます。次に舌の先を歯茎につけないようにして、「ラ・リ・ル・レ・ロ」と発音させます。その音が英語の音の[ra・ri・ru・re・ro] により近い音になります。さらに英語の音に近づけるためには、[ra・ri・ru・re・ro] と発音する前に、一回、一回、日本語の「ウ」の口の形を作って、「ゥラ、ゥリ・ゥル・ゥレ・ゥロ」と言うつもりで発音させます。「つもり」の意味は「ウ」の口の形をするだけで、実際には「ウ」と言わないと言うことです。「ウ」の口の形を作ることで、舌が、自然と r の発音を出しやすい形になります。

sの発音

s の発音は、発音記号では [s] と表記されます。s を名前読みすると [エス]ですが、 [エス]から [エ]を引いた発音です。sit や stand の s の音です。空気入れで空気を入れるときや、風船から空気が抜けるときの音に似ています。日本語では「スー」と表記しますが、音にならないような音です。「息を吸う」と言うときの「すう」とは、明らかに異なる音です。この音を出すには、口を横に開き、右手の小指を口の右端に、左手の小指を口の左端に入れて、口が裂けるほど強く横に引っ張ります。そして口 を横に開き、上の歯と下の歯をしっかりと合わせます。舌を上の歯の後ろに置き、強く息を出すと [s] の発音になります。

tの発音

t の発音は、発音記号では [t] と表記されます。Tを名前読みすると [ティー]ですが、 [ティー]から [イー]を引いた発音です。ten や trip の t の音です。 [t] と [d]は、兄弟だと思ってください。  [d] を声帯を震わせないで発音すると [t]の音になります。足の小指の先を机の脚の角にぶつけて「あいタ」と言うときの「」の音に似ています。 [l] の発音の時に、舌の先を、上の歯の歯と歯茎の間にしっかりつけるように話しましたが、 [t]の発音は、[l] のときよりも、舌の先をほんの少し先にもっていき、舌を弾くように「トゥッ」と発音します。

u の発音

u の発音は put の u の発音である「ウ」の発音の仕方の方が日本人には馴染みやすいと思いますが、基本の音としては、sun や cut の u 発音から教えます。汎用性がはるかに高いからです。発音記号では[Λ] と書かれます。日本語の「ア」に近い音ですが、舌に力を入れないで音を出します。ふいに背中をポンとたたかれて、「アッ」と声を出したときの音により、似ています。

vの発音

v の発音は、発音記号では [v] と表記されます。Vを名前読みすると [ヴィー]ですが、 [ヴィー]から [イー]を引いた発音です。video や vet の v の音です。 [ v ] と [ f ]は、兄弟だと思ってください。 f の発音のところで説明したように、上の歯で下唇を強く噛むようにします。(逆にするとゴリラになります。(^l^) ) そして、「ヴ」と声を出します。息の流れを速くして、あまり、声帯を震わせないようにしましょう。日本人は上の歯が唇からすぐ、離れてしますので、初期の練習では、最低5秒は、噛んだまま、音を出させるようにしましょう。

w の発音

w の発音は、発音記号では [w] と表記されます。日本語の [ウ] に近い音ですが、日本語の[ウ]よりも、もっと口をすぼめて発音します。まず、口をとがらせて、口元をよくマッサージします。そして、口筋と鼻の下に力を入れて、ライオンが吠えるように[www] と強く息を出した時の音です。

x の発音

xの発音は複数ありますが、基本の発音としては、six や box の x の発音から教えます。発音記号では [ ks ] と表記されます。k の発音に s の発音を続けた言い方になります。ちょうど、おかしいときに「クスッ」と笑う時の、「クスッ」似ていますが、声にならない音です。声帯は震えません。

y の発音

yの発音は複数ありますが、基本の発音としては、Yes や yellow の y の発音から教えます。発音記号では[ j ]と表記されます。「イエス」「イエロー」のように「イ」とふりがなをふられがちですが、日本語の「イ」とは、異なった音です。山の頂上から「ヤッホー」と叫んだときの「ヤ」に近いです。しかし、日本語の「ヤ」のように、口を大きく開けません。唇は上下にわずかに開けます。そして息を強く出して「ユィ」と出した音に近いです。

zの発音

z の発音は、発音記号では [z] と表記されます。z を名前読みすると [ズィー]ですが、 [ズィー]から [ィー]を引いた発音です。zoo や zebra の z の音です。 [ z ] と [ s ]は、兄弟だと思ってください。 s の発音のところで説明したように、この音を出すには、口を横に開き、右手の小指を口の右端に、左手の小指を口の左端に入れて、口が裂けるほど強く横に引っ張ります。そして口 を横に開き、上の歯と下の歯をしっかりと合わせます。舌を上の歯の後ろに置き、強く息を出し、声を出すと [z] の発音になります。このとき声帯はやや震えますが、日本語の[ズ]ほど震えません。

フォニックスの留意点

ここまで、a ~ zまでの基本的な発音の仕方を紹介してきましたが、これだけでは、初めて見る単語を読めるようにはなりません。例えば c の発音は[ k ]としましたが、city や center のように[ s ]と発音する場合もあります。子供が文字と音には関係があることを知ることが、まず、大切です。文字の学習に入ったときに、何の手がかりもなく単語を覚えるのと、ある程度音と文字の関係性を知って単語を覚えるのでは、雲泥の差があります。英語では日本語と違って、文字について言えば、大文字と小文字を合わせて、たった、52文字を覚えればよいのです。しかし、意味のある単語を表すためのアルファベットの組み合わせが難しいのです。そのために、フォニックスは開発されました。日本人のためにではなく、英語圏の幼児教育のためです。英語をすでに日常的に話している子供たちのためです。しかし、英語の苦手な日本人にとって、フォニックスはとても有益なツールだと思います。多くの英語に携わる人が学び、小学校のどの時期に、どの部分を教えたら効果的か研究が進むと良いと思います。

フォニックスの実際や、ネイティブの口元をアップにして見れる動画や楽しく学べそうな動画もたくさんアップされています。私もいくつか見ましたが、とても良くできていると思うものがたくさんありました。しかし、英語が得意で、英語を当たり前に流ちょうに話せる人が作ったものばかりでした。口のかたちや舌の位置、発音のこつを懇切丁寧に書かれたものもありました。しかし、日本人が英語を話す時の本質の部分が抜けているのです。それは、息で話すことです。力を入れ、息を強く出し、声帯をできるだけ震わせないようにすること。これは、ビデオを見て理解することはできません。日本人がジャパニーズ・イングリッシュから抜けられない理由の一つはここにあります。

もう一つ留意すべき点は英語指導助手です。導入しはじめた頃は、日本語を話せない英語指導助手がほとんどでした。生徒は自分の話した英語が通じたことに喜びを感じました。英語の教師ですら感動でした。また、英会話が苦手な英語の先生は、一緒に授業することを嫌いました。しかし、今は違います。ほとんどの英語指導助手が日本語を話します。日本語を話せないと打ち合わせもスムーズにできないので、ある程度日本語を話せる人のほうが、採用されやすいのかもしれません。そこに留意すべき点があります。彼らの話す英語が崩れているのです。崩れていると言うよりは、わざと崩していると言った方が良いかもしれません。私たち日本人と話す時の英語と、英語指導助手同士で話す時の英語がまるで、違うのです。彼らも私たち日本人にはどのように話したらよく通じるのかを学習するのでしょう。日本に滞在が長いほどその傾向が顕著になるように思われます。すると、本来の英語から日本人に通じる英語になってくるのです。日本人の間で通じる英語、いわゆるジャパニーズ・イングリッシュです。彼らはとても親切な人が多いです。子供たちがわからない表情をすると、必要以上にゆっくりと、そしてやや大げさに英語を話すのです。

フォニックスを教える時も注意が必要です。例えば S の音を学習するとしましょう。本来の[ s ]は声にならない音です。そこで、「よくわからない。」と不満の声がでるかもしれません。少人数でない通常のクラスでは、後ろの席の子供たちは、よく聞き取れないかもしれません。ここで、英語指導助手が、皆がわかるようにと「スー」と聞こえる音を出して発音したら、その時点でアウトです。本来の英語ではなく、ジャパニーズ・イングリッシュを学習することになります。ビデオで教える方がましです。「百回間違った発音をするなら、一回正しい発音をする」といった気概で教えたいものです。

日本の英語教師の役割は、子供の発音に注意していましょう。子供は正しい発音をまねしているつもりでも、正しくできてない場合も多々あります。良くできているところはほめ、できていないところは矯正していきましょう。声の大きさにも注意が必要です。大きな声で発音しているクラスの方が活気があって良いように思われがちですが、英語の発音練習の場合、必要以上に大きな声を出すと、声帯が震えがちになり、本来の英語の音から遠ざかり、いわゆるジャパニーズ・イングリッシュになってしまいます。

単語はイメージを教えよう。

単語の導入

小学校の英語にも文字が入ってきます。子供たちは、実物や絵を見て、教師の発音をまねをしながら英単語を覚えてきました。りんごを見て、子供たちは apple と発音します。実物のりんごがない場合は、絵に描いてあるりんごを見て、apple と発音します。この教え方が良いのです。もし、ここに日本語を介在したらどうなるでしょうか。実物のりんごを子供たちに見せて、これは、「りんご 」です。りんごは、英語では apple と言います。ここで、子供たちは apple と発音します。これでは、英会話など、「夢のまた夢」になってしまいます。文字が入ってくるとこれと同じことがおきかねないのです。

これまでと同様に初期のうちは、実物や絵を使ってリスニングやスピーキング練習にとどめ、ライティングや文字の介入は避けたいものです。子供たちが過度の負担を感じ、英語嫌いを増やしてしまう恐れがあります。また、すぐに文字によりかかる癖をつけるのも避けたいものです。

日本の教師にも注意が必要です。例えば、crane を教える時に、「crane は『鶴』のことです。」と日本語を介在してしまうと、crane → 鶴 →  という図式ができあがり、「鶴」という日本語を介在した理解になってしまいます。これが、続くと、英語を日本語に置き換えて理解するという好ましくない学習過程が形成されてしまいます。単語が文になっても同様です。英文を日本文に直して、理解する。多くの日本人がこのように教えられてきたのではないでしょうか。10年学習しても、英会話ができないのはあたりまえです。

単語はイメージを教えよう

英単語を教える時には、ただ単に、その語の日本語を示すだけでなく、その語のイメージを教えることが大切です。

 これは、英語ではどちらも crane という単語で表されます。日本語では左が起重機(クレーン)、右は「鶴」という単語で表されます。「どこか似ているな」と思われた人は、言葉に関するセンスがある人です。crane のイメージは「(鶴のように)首を長く伸ばす」ことです。共通点が見い出せる賢い子供たちばかりではありませんので、日本語教師の助言が必要になってきます。

 これは、英語ではどちらも mouse という単語で表されます。こちらの方が類似性がつかみやすいかもしれません。左は「マウス」右は「ねずみ」です。マウスは、コンピューターの付属品として、形態がねずみに似ているところから命名されたのでしょう。もうすぐ死語になってしまうかもしれませんね。辞書をひくと、一つの英単語にたくさんの日本語の意味が書いてあります。その大本となるイメージをつかむことが大切です。子供の英単語に対して大本のイメージは何だろうかと考える感性を養ってあげることが重要なのです。

夏目漱石の小説に「我が輩は猫である」という著作があります。英語版では ” I am a cat.” となっていました。もし、子供たちに I=「私」 am=「~です」 a=「一人の、ひとつの」 cat=「猫」と機械的に教えていたらどうでしょう。英文の ” I am a cat.” は、「私は猫です」としか訳せないでしょう。(テストではこれで正解なのですが・・・

” I ” は英語では自分のことを指すイメージです。ところが、日本語では、相手との関係等により、「私、ぼく、俺、わし、あたし・・・」等様々な言い方をします。am は、主語や時制によって、is, are, was, were と変化し、ビー動詞と呼ばれます。大本の形が ” be ” だからです。” be ” のイメージは ” to exist “「存在する」を表します。ですから、” I am a student. ” は「ぼくは一人の生徒として存在する。」→「ぼくは生徒です。」となります。、” This is a pen. ” は「これはひとつのペンとして存在する。」→「これは、ペンです。」となります。単語のイメージがつかめてくると、英文を臨場感をもって読めるようになります。

かつて、中学校の英語の教科書のコラムの中で、中央に” spring ” という単語がおかれ、その周りに、日本語で「春」「泉」「ばね」「跳ぶ」が配置され中央の ” spring ” と線で結んでありました。英単語には色々な意味があるということを示したものです。これでは、英語のセンスは育ちません。大本となるイメージは何なのかを捉えることが大事なのです。大本のイメージは「はじける」です。

また、単語を教えるときには、この単語は名詞で、この単語は動詞というように、区別して教えない方がよい。と思います。単語を固定してしまうことで、単語が使えなくなってしまうからです。crane や mouse の例で示したように、言葉は、その言葉が持つイメージを膨らませて使われるからです。例えば、dog は、名詞で「犬」と教えるが、動詞で「尾行する」という意味にもなります。box は、名詞で「箱」と教えるが、動詞では、「箱詰めする」とか「拳でなぐる」という意味にもなります。ボクサーが、グローブを手にはめている様は、手が、箱形になっているようにもイメージできますね。拳で殴り合うのが boxing です。book は名詞で「本」と教えますが。これでは、本の意味でしか使えません。イメージとしては、「綴じ込んだもの」のことです。すると書物の他に帳簿という意味に使われることも理解できます。さらに、帳簿に書き込むことから、「予約する」という意味になります。誤って一カ所に二つ同時に予約を入れてしまうことを double booking といいますね。このように、使える英語にするためには、単語のイメージを教えるのが、とても有効な手段なのです。

単語のイメージは、言い換えれば、その単語の本質の意味です。日常的に英語を話さない私たち日本人にとっては、単語のイメージをつかむのは、そう容易いことではありません。多くの英和辞典で単語をひくと、その意味が使われる頻度の高い順から書いてあります。最初にその単語のもつイメージが書いてある辞書は少ないです。スマホで単語を調べるとその単語の意味や正しい発音までわかりますが、その単語のもつイメージ、本質は、書いてありません。それが、書かれるようになると日本人の英語力は飛躍的に上がるのではないでしょうか。

単語のイメージに興味ある方のために、参考資料をあげておきます。

  • 英語語義イメージ辞典  正村秀實 著    大修館書店
  • 新・英単語発想辞典  奥津文夫 編著  三修社

英語を使う場面を大切にしよう

文の導入

文の導入では、子供が英文を発話するときに、その意味を認識して言っているかが重要になります。機械的にリピートさせる練習では、発音練習にはなっても、英語を使えるようにはなりません。発話とその内容が一致することを心がけることが大切です。

文は使われる場面と結びつけて導入しましょう

文は実際に使われる場面設定をして教えることが大切です。例えば ” This is a book. ” の文を導入するときに、黒板に ” This is a book. ” と板書し、それぞれの単語の意味を説明し、文全体では、「これは、本です。」という意味になります。みんなで言ってみましょう。後について言ってください。これでは、無味乾燥な授業になってしまいます。英語嫌いを増やすだけです。

次に、教師が実際に本を持って ” This is a book. ” と発話した場合はどうでしょうか。板書しただけの導入より、子供は文を使う状況がわかるので、はるかによいです。そして、教師の後について ” This is a book. ” と発話させます。しかし、これでも、子供に誤学習をさせる可能性があります。子供から見れば、” This is a book. ” ではなく、” That is a book. ”  なのです。そこで、実際に子供たちにも本を持たせる場面作りをして、” This is a book. “と発話させます。これで、子供たちは生きた言葉として、英語を習うことができます。もし、場面作りがうまくできない場合は、教師の英語を繰り返させる前に、「先生になったつもりで」の一言を加えるとよいでしょう。教師の発話を安易に繰り返させることは、英会話によるコミュニケーションからは、ますます遠ざかってしまいます。

this を教える時には、that も同時に教えましょう。ある言葉が意味を持つのは、他の言葉との関係においてです。I を教える時には you を he を教える時には she を対比して教えます。すると子供たちは日本語を介さなくても理解できるようになります。

文を導入したら子供たちに使える場面を考えさせましょう。

新しい文を導入し学習したら、子供たちに「どんな場面で使えるだろうか。」と問いかけて発表させるとよいと思います。手があがる子供は、新しい文を良く理解できている子供です。例えば、” Do you  have a pencil ?” という文を学習したら、「筆記用具がないので借りたいとき」などの答えが返ってくるといいですね。” Do you  have a pencil ?” と言われて、”Yes, I do.” と答え、鉛筆が差し出せるような子供に育ったら、すばらしいですね。

クラスルーム・イングリッシュはジェスチャーを使って教えよう

授業は可能な限り、英語で進めましょう。「” Open your books ” と言われたら、本を開くんですよ。」といちいち言わなくても、” Open your books ” と言いながら、本を開く動作をすれば子供たちは理解できます。” Stand up. ” も手で立ち上がる動作を示しながら発話をすれば理解します。これを繰り返していけば、手の動作がなくてもわかるようになります。先生の英語の発話すべてが子供たちにとって、生きた英語の教材になります。授業の中で積極的に英語を使っていきましょう。

おわりに

ここまで、読んで頂き、ありがとうございます。子供たちに英語を教えるにあたって、少しでもお役に立てたら幸いです。

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